一般的にはあまり知られていないことだが, 銀行は, 預金以上のカネを貸出することができる.
現行の銀行の自己資本比率規制である「バーゼル2」の下では, 理論上は, 国際業務を行う銀行は預金の12.5倍まで, 国内業務のみ行う銀行は預金の25倍まで貸出することができる.
銀行が, 預金以上のカネを貸出によって作ることを, 「信用創造」という.
【 バーゼル2 銀行の自己資本比率 計算式 】
国際業務を行う銀行の自己資本比率
= 自己資本 ÷ リスク・アセット
= (基本的項目 [Tier1] + 補完的項目 [Tier2] - 控除項目) ÷ (「信用リスク規制」の額 + 「市場リスク規制」の額 + 「オペレーショナルリスク規制」の額)
≧ 8%
国内業務のみの銀行の自己資本比率
= 自己資本 ÷ リスク・アセット
= (基本的項目 [Tier1] + 補完的項目 [Tier2] - 控除項目) ÷ (「信用リスク規制」の額 + 「市場リスク規制」の額 + 「オペレーショナルリスク規制」の額)
≧ 4%
(※) 国内業務のみの銀行の自己資本 (補完的項目 [Tier2] ) の計算において, その他有価証券の評価益の算入を認めない. 分母の計算は国際業務を行う銀行と同等.
【 バーゼル2 自己資本 内訳 】
・
基本的項目 [Tier1] : 普通株式, 優先株式, 内部留保 等
・
補完的項目 [Tier2] : その他有価証券評価益の45%相当額, 土地再評価に係る差額金の45%相当額, 一般貸倒引当金, 劣後債・劣後ローン, 期限付優先株 等
(注1) 「補完的項目」は基本的項目の額を限度として算入可能. また, 期限付劣後債及び期限付優先株 (Lower Tier2) は, 基本的項目の額の50%を限度として算入可能.
(注2) 一般貸倒引当金は, リスク・アセットの1.25% (国内基準では0.625%) が算入の上限.
(注3) 国内基準では, その他有価証券の評価益は補完的項目に算入しない.
・
控除項目 : 銀行間での意図的な資本調達手段の保有に相当する額等.
【 バーゼル2 信用リスク 計算式 】
信用リスク・アセット額
= Σ ( 与信額 (保証等オフ・バランス取引含む) × 各リスク・ウェイト )
与信先区分 |
バーゼル2 リスク・ウェイト |
国・地方公共団体 |
0% |
政府関係機関等 (うち地方三公社) |
10% (20%) |
銀行・証券会社 |
20% |
事業法人 (中小企業以外) |
(格付けに応じ) 20~150%
または
(格付けを使用せず) 一律100% |
中小企業・個人 |
75% |
住宅ローン |
35% |
延滞債権 (※) |
50~150%
(引当率に応じて加減) |
株式 |
100% |
(※) 延滞債権は, 3ヶ月以上延滞が発生している債務者に対する与信.
【 バーゼル2 オペレーショナル・リスク 】
事務事故, システム障害, 不正行為等で損失が生じるリスクを計測.
[1]基礎的手法, [2]粗利益配分手法又は[3]先進的計測手法から選択.
(注)[1], [2]は粗利益を基準に算出, [3]は過去の損失実績等をもとに計量化.
[ 情報源: バーゼル2(自己資本比率規制)について /
http://www.fsa.go.jp/policy/basel_ii/basel2.pdf ]
2013年から2019年にかけて, 段階的にバーゼル2からバーゼル3への移行が行われる.
この移行は, 一言で言うと, 銀行に対し, 自己資本の「量」と「質」の強化を強制することである.
【 バーゼル3 要点 】
■ 自己資本の量の強化
[1] 自己資本比率の最低基準の引上げ
・普通株式等 Tier1 比率 2% → 4.5%
・Tier1 比率 4% → 6%
・総自己資本比率 8% を維持
[2] 資本保全バッファー (2.5%) の創設
(参考)
・普通株式等 Tier1 比率 計 7 %
・総自己資本比率 計 10.5 %
■ 自己資本の質の強化
[1] 自己資本に算入できる条件の厳格化 (一部の劣後債は自己資本に算入不可)
[2] 資本からの控除項目の拡大 (無形固定資産等を資本から控除)
[ 情報源: バーゼル3(国際合意)の概要 /
http://www.fsa.go.jp/policy/basel_ii/basel3.pdf ]
[ 情報源: 国際金融規制(バーゼル規制) /
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/gov_debt_management/proceedings/material/d20141015-2.pdf ]
【 分析 】
銀行の貸出による「信用創造」と, 「信用リスク」の計算式に使われている, 「リスクウェイト」が, 銀行・証券会社が跳梁跋扈し, 富める者が更に富み, 国政府や地方自治体が債務を増やし続ける, 根源的なカラクリである.
2013年から2019年にかけて, 段階的にバーゼル2からバーゼル3への移行が行われ, 銀行は, 自己資本の「量」と「質」の強化を強制される.
バーゼル3への移行は, 少なからず, 信用収縮を起こす.
2018~2019年あたりは, 世界的な金融恐慌が起こることを警戒した方が良いだろう.
[ 情報源: 『国際金融の新規制合意 日米欧当局、貸出資産の算定厳しく』 / 日本経済新聞 / 2017年12月08日 /
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO24412790Y7A201C1EAF000/ ]